アイドル転落記

絶望の学生時代からアイドルを経て不倫に走り、愛する子どもを殺し、ブラック企業を経験したのちに平凡且つ普通のOL生活を手にいれる一般女性の話。ノンフィクション。実話です。

高校生活⑤性悪女

ミュージカルの一般公募からの応募は
中学生2人、高校生1名、大学生2名、社会人2名だった。

オーディション形式はとっていなかったが、
全員舞台経験者、演技経験者だった。

中学生2人は以前このスクールの短期コースに通っていた、いわば関係者で、
高校生はバレエを4歳から習っていた。ミュージカルを副専攻で選べる学校に通っていて、歌も習っていた。
私よりも、そして明らかに英里よりもダンスが上手だった。動きが可憐だった。

莉奈という名のその高校生は私と英里のひとつ下の学年だったが、
莉奈の実力を知った英里はすぐに莉奈と仲良くするようになった。
向上心の高い莉奈が一般通常レッスンにも参加しはじめたので、平日も莉奈がスクールに来るようになった。

 

英里はそれからすぐに私の存在を虫けらのように扱うようになった。

下手くそには興味がないといった具合に、あからさまに避け、ダンスレッスンも歌のレッスンも離れた位置に陣取ってこちらを見ながらくすくす笑った。

 

英里だけならまだよかったのだが、いつしか同年代の女子全員からそういう態度を取られるようになっていった。莉奈は長い物には巻かれろ精神を持った典型的女子で、英里の味方をしていた。

英里にとって私の何が気に入らなかったのかは今だに解明できていない。

今まで仲良くしていた、一緒に買い物に行き、振り付けを考えた英里とは別人だった。

豹変した英里が怖かった。

女は総じて性格悪い。そう思った高校2年の10月だった。

 

通常レッスンに行くと全員から避けられ、こそこそ笑われるからもう行きたくなかった。

シューズも揃えたし、月謝も払っているけれど、

11月からはだんだん通常レッスンには行かなくなっていった。

 

だが、公演の為の土日のレッスンには休まず行った。

楽しみにしている公演だからレッスンに遅れを取りたくなかったし、大学生と社会人は仲良くしてくれたから苦ではなかった。

そしてなぜか、英里は公演レッスンのときには無視したり避けたりあからさまな態度を取ることはなかった。平日の態度が嘘のように普通に話しかけてきたので、どうしたらいいか分からなかった。

大学生と一緒にいるのは心地よくて楽しかったので、プライベートでも遊んだりもしたが、英里達の態度については言及しなかった。

女はすぐに自分の都合で態度を変える。基本的に性格が悪い。私の中にインプットされ始めていた。

大学生も信用しきれていなかったし、例外的に良い人だとしても、構築してきた私たちの間に無駄な亀裂を生みたくなかった。

 

通常レッスンから足が遠のき始めていた11月上旬、公演の配役オーディションが行われた。

希望する役を提出し、1人ずつ歌唱、演技、ダンス審査が行われた。

 

オーディションの結果は、

莉奈が主人公の敵で準主役、英里が莉奈の手下で役付きではあるけれどわき役、そして私は役が付かないアンサンブルになった。

オーディション内容も酷いものだったけれど、事前に提出したレッスン参加表を正直に記入したのも理由のひとつらしい。

テスト前は学校で膨大な提出物が課されるので、レッスンに参加していたら提出物が処理しきれないし、提出物ポイントがなくなったら留年と隣合わせだ。テスト前は×で出していた。

 

土日は英里の態度が普通だから、そろそろ大丈夫なのかなと淡い期待を抱いて平日の通常レッスンに参加した私に英里は吐き捨てた。

"へえ。今日は来たんだ。もう来ないかと思ってた。

ねえ、あんた馬鹿真面目に参加表提出したでしょ。テスト前で参加できない日も◯で提出しておかないと役付きなんて貰えないよ。熱出たとか適当に理由つけて休むもんなんだよ。あんたって本当に何も知らないよね。馬鹿じゃないの"

皆がまたクスクス笑った。嘲笑う目で見てきたのは全員役を貰っている子達だった。

 

その日はまた避けられ遠目から笑われた。

こんなに嫌われる意味が分からなかった。

英里と一緒なら頑張れると直感した自分を恨んだ。

女社会は誰かをいたぶっていないと成りたたない、しょうもない世界なんだ。ここでもそうなんだと悲しくなった。

(※後日 新体操編にて詳しく話します。)

 

 

 

だが、悲しくなると同時に別の感情が湧いてきた。

 

英里のその発言以降、私は開き直って通常レッスンにも参加するようになった。

高校2年にもなって取り巻きを作ってくだらない事をしている女におびえていた自分が急にアホらしく思えた。

 

”可愛い天才達”に英里たちのような態度をとられていたら、

自分を価値のない人間であると思い悩んで本当に駄目になっていたかもしれない。

学生にとって学校とは世界の全てであり、その世界で全否定されれば、人格形成に大きな欠損を与える。

その年齢が小さければなおさら影響は大きいが、高校生といってもたかが10代中盤。大人になる過程において大切な時期ではあると思う。

 

好きで通っているミュージカルスクールなのに、くだらない人間の為に屈するのは悔しい。

同時に湧いてきたのは闘志だった。

 

 

それからは避けられようが笑われようが関係なかった。

くだらない人間をこちらが無視しているのだとすら錯覚した。

以前は更衣室に入るのも英里達がいるのではないかとびくびくしていたが、英里たちがいてももう関係なかった。

むしろ、人を虐げることで楽しんでいる女の子たちを見下す視線で、今日はどんなくだらないことをしているのかと興味が湧いて、いないとがっかりした程だ。

 

12月下旬になり、寒さも増してきた時期についに事件が起きた。

公演を2週間後に控えたその頃、小中学生は冬休みだったので、出演メンバーは下宿所を利用して合宿を行っていた。合宿と言ってもレッスン後にお泊りをするだけの仲良し会のようなものだったが。

その、仲良しお泊り会には大人の目はなかった。
先生もレッスンも後は帰宅し、下宿所のお世話係のおばちゃんもごはんのあとはご自由に楽しくやってね、といったように消えていった。

 

大人の目がなくなってからはひどいもんだった。

下宿生だった英里が我が物顔で小学生に雑用を指示し、自分たちは一番にお風呂に入り、寝場所を確保してお菓子パーティーを始めていた。私の知っている”英里の本当の姿”を全員が目撃した。

 

自分の庭で大きな顔をしているだけの英里に大学生は何も言わなかったし、英里も大学生には何も言わなかった。

年上、先生、大人。英里は自分より立場が強い人には手を出さない。むしろ、顔色をいつも伺い、良い子を演じ続けていた。

大学生は外部の人間だし、自分のテリトリーでの影響力がないと判断したから本当の姿を現したのだろう。

 

深夜になり、子ども達が寝静まった頃にレッスン場の更衣室に移動して今まで英里にされてきたことをついに暴露した。

 

"そういう子だよね"

"だって顔が引きつっててやばいじゃん"

大学生たちは英里の本性を見抜いていた。

 

その一件以来子どもたちは大学生たちを慕い、

英里たちは出演者の中で浮いた存在になっていった。

 

 

1月中旬。公演まであと1週間を切った頃、レッスン中に小学生数人が泣き始めた。

公演が近くなっていたのにクライマックスの演技について先生からの駄目出しが連発したのだ。

 

英里たちに虐げられるし、大人はぴりぴりしている。

そんな空気を一番感じ取るのは子どもだ。

それが子どもたちの精神状態にも影響していた。

子どもにとって環境が悪すぎた。

 

舞台裏が不仲では良い公演になるとは到底思えなかった。誰もがそう思っていた。

 

 

そんなとき一番に声を挙げたのは紛れもない、戦犯の英里だった。

”みんな、一緒に劇を作り上げる仲間なんだよ。一つの舞台に立って一つのものを作るのに、こんなに心がバラバラに離れてたら無理だよ。いいもの作りたくないの?私は作りたいし、その為の努力をたくさんしたいよ。だから、私からのお願い。みんなで話し合ったり、もっと仲を深めていいもの作っていこうよ”

 

 

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私だけではない。全員の頭にクエスチョンが浮かんだはずだ。

もちろん、英里派の性悪女たちは、目上の目を気にして英里の肩を持った。

まるで私たちが一部の人間で仲良しごっこをして今までの全体の不仲の原因を作り出したような物言いだった。

 

ここまでくると逆に凄いな。笑えてきた。

心の中で大爆笑したが、

これ以上面倒なことは御免だったから心の中で留めておいた。

 

それからというもの、今までの横暴さが嘘のように英里派性悪女とその他はいい関係を築いて着実に公演に向かって進んでいった。

表面上は。

 

悪者にされたことによる鬱憤は大学生派にとって大きなわだかまりとなっていた。

 

そのまま表面上の良い関係のまま、

公演は全日程、満員御礼で幕を閉じた。

 

舞台はに立てて素直に嬉しかったし、

やって良かったと心から思った。

やりたいことを何があってもしっかり頑張れる自信がついたような気がした。

 

人前で踊ること、歌うこと、もっとやりたいと思った。

 

 

 

 

 

 

思ったけれど、そのスクールに行ったのは、

公演の公式打ち上げ&上映会が最後だった。