高校生活④不公平感
スクールに通い始めて次の日曜日に英里と買い物に行く約束をした。
それまではシューズをもっていなかったので、
レンタルを利用していたが、自分のを持っていたほうがいいと英里が誘ってくれたのだった。
英里は広島県出身で、ミュージカルスクールに高校1年生から
住み込みで下宿をしていて、プロを目指していた。
下宿所には、高校卒業と同時に出所するというルールがあるらしく、当時下宿していたのは英里だけだった。
私が同い年だから英里も嬉しかったらしく、色々なことを教えてくれた。
体験レッスンではジャズダンスを受講したが、
タップダンスとバレエもミュージカルにおいては重要な要素となるから受講した方がいいこと、皆がどんな物を使っているのか、レッスン時に先生にアピールするのは大事なことだよ、と処世術のようなことも教えてもらった。
ダンスだけで3種類を受講することになった結果、購入する物が多くなった。
ジャズダンスシューズ、タップダンスシューズ、バレエシューズ、その他もろもろ。
S区の繁華街に英里と繰り出し、
chacootをはじめとした、用品店をはしごして、シューズを揃えた。
バレエの際に着るレッスン着も揃えたので、金額的には大きくなったが、自分では1円も出さずに済んだ。親が持たせてくれたお金で購入したので、正確には覚えていないが、軽く5万は越えていたと思う。
音大に通い、自分専用のグランドピアノと防音室を買い与えられた姉を見ていたから、これくらいは安い買い物だし当然だと思っていた。
思い返せば、姉が高校で吹奏楽部に入ったときは30万円近くするトランペットを買い与えていた。それなのに私が部活で使うからとギターをねだったときには
”そんなの一生使うわけじゃないんだから”と却下された。
トランペットだってプロになるわけじゃないんだから一生使わないのに。
姉と私へのお金のかけ方に不公平感を抱いていたことは間違いない。
結局、お年玉で貯めていた5万円で自分で買ったけれど、たいして練習しなかったし、3回ほどライブでギターヴォーカルとして、コードのみ演奏しただけでタンスの肥しになっているから母が正しかったのだが………
当たり前に自分専用の高価なシューズを揃えた私は、レッスンに打ち込んだ。
学校から直接スクールに通っていた私はいつもレッスン時刻よりかなり早くついていたが、住み込みの英里もいつも早かったので、レッスン場を借りて2人で振り付けをして、ニコニコ動画(当時はYouTubeよりもニコニコ動画が主流だった)にUPする約束もした。
レッスンに通い始めて1か月が経った頃、
定期公演を開催するとの発表があった。
私が客席から見ていた前年の公演は、小中学生の部と高校生以上の部で分かれて2作品公演だったが、当年は全体でひとつの作品を公演することになった。
つまり小中学生がメインの作品であり、高校生以上はわき役か、役も付かないアンサンブルの参加になると発表されたも同然である。前年は準主役級の役を演じた英里はひどく嘆いていた。
子どもの数に対して、大人役が少なすぎる為、
外部の一般人からも募集を募ることになった。
これが軌道に乗り始めた私のレールを再び曲げることとなる。